デザインフィルと歩んだブックポーチre:tter誕生の記録

ブックポーチre:tter共同開発者の曽我さんと共に、制作パートナーであるデザインフィルさんにお話を伺いました!

一通のメールから始まった

ブックポーチ「re:tter(レター)」の構想を形にするため、私たちは理想の素材を探し続けていました。実績のない個人のものづくりに対して、行き詰まりを感じていたんです

そんな折、幸運にも一つの出会いに恵まれました。

「トラベラーズノート」など、書くことに寄り添う質の高いプロダクトを世に送り出してきたデザインフィル。紙の可能性を熟知されているデザインフィルなら「本を手紙のように包む」というコンセプトを共に深めてくれるのではないか。一抹の期待を込めて送ったメールに「快諾」の返事をいただきました。

実際の制作プロセスは、驚きの連続でした。素材の根本的な見直しや、海外工場とのミリ単位の調整。見えない舞台裏には、長年培ってきた「ものづくりへの誠実さ」が凝縮されていました

私たちが理想を妥協せずにこれたのは、大切なパートナーが伴走してくれたからです。

今回、制作の裏側にあった物語を、改めて私自身の言葉で伺いたい。そんな思いからインタビューは始まりました。

さっそくですが、法人の案件が主軸であるデザインフィルさんが、なぜ今回の「個人」の熱量に応えてくださったのでしょうか?

お話を伺った人
杉江さん(株式会社デザインフィル プロジェクト窓口・営業)
本プロジェクトの窓口として、コンセプトの受容から進行管理までを統括

市川さん(株式会社デザインフィル 製造マネージャー)
製造チームのリーダー。長年培った品質基準を土台に、製品化へのアドバイスと監修を担う

谷山さん(株式会社デザインフィル 生産管理)
資材の手配から海外工場との細かな折衝まで、製造現場の実務を一手に引き受ける

ご協力:株式会社デザインフィル コマーシャルデザイン事業部
https://www.designphil.co.jp/btob

法人案件以外を引き受けることは基本ない

らこ: まずは役割から伺いたいのですが、杉江さんが窓口で営業ご担当。市川さんと谷山さんがそれぞれプロダクトや製造のご担当でしょうか?

市川: はい、その認識で合っています。私は製造担当のマネージャーで、ものづくりに携わるメンバーが5名ほどいます。その中で、今回の案件で実際に工場とやり取りし、生産を進めたのが谷山です。私はもともとレザーペーパーの企画をリーダーとして進めていた経緯があり、今回も谷山にアドバイスをしながら並走しました。

らこ 今回は個人としてお願いした案件です。正直、引き受けていただけたこと自体が本当にありがたくて。その背景を伺えますか?

杉江: 理由は二つあります。一つは、私自身が本を読むタイプで、「本を手紙のように大事に扱う」というコンセプトを聞いた時、純粋に「いいな」と思ったんです

もう一つは、らこさんと曽我さんの向き合い方です。こだわりを持って“良いものをつくりたい”という思いを強く感じました。弊社の価値観も「早くて安く」ではなく「良いものを丁寧につくる」こと。目指す方向が同じだ、この二人とならいいものができる、そう確信しました。

らこ めちゃくちゃ嬉しいです。実はデザインフィルさんのプロダクトはもともと好きで、最近も下北沢の「月日」さんでデザインフィルのダイアリーを買ったばかりなんです。それにしても、個人での持ち込み案件は、御社ではどれくらいの頻度であるものなんでしょうか?

杉江: ほとんどないに等しいです。基本はBtoBの取引ですので。今回はレアケースですが、お二人の「面白いものをつくれそうだ」という熱量が、弊社の方向に合致したのが大きかったですね。

「手紙」や「紙」というコンセプトへのこだわり、素材探しに時間をかけた末に弊社に辿り着いてくださった。その偶然は、私たちにとっても嬉しいものでした。

曽我: まさか愛用していたトラベラーズノートをつくっている方々とご一緒できるなんて、思ってもいませんでした。

杉江: こちらこそです。個人案件は非常に珍しいケースですが、だからこそ、お二人の「一切妥協のない理想」を、私たちの技術でどう具現化するかというプロセスは、オペレーション面を含めて刺激的で、純粋に楽しい挑戦でした。

素材手配の舞台裏

らこ 素材変更など、我々の試行錯誤にお付き合いいただきました。デザインフィルのチームとして、ご苦労された点はありますか?

杉江: 実は「大変だった」というよりは、むしろ進めやすい案件だったと感じています。お二人のご意向が最初から明確で、具体的なイメージ画像も共有いただいていたので、私たちは「それをどう実現するか」という実務に集中することができました。

社内のデザイナーを含め、「目指すゴールがはっきりしていて、やりがいがあるね」とチームの士気も高かったです。

らこ 紐の細部など、ご提案もいただきました。細かく調整してくださいましたよね。

杉江: はい。私と谷山に加えて、専任のデザイナーが1名。この3人がコアチームとなり、いただいたフィードバックをどう版下や仕様に落とし込むか、三位一体で確認を重ねていきました。

らこ 制作の舞台裏についても伺いたいのですが、レザーペーパーからウォッシャブルペーパーへの変更時、手配や工場のコントロールなどはスムーズだったのでしょうか?

谷山: そこは実務のディテールで調整の連続でしたね。弊社では補資材の手配から縫製までを一括で束ねる代表者の方を介して、中国の工場とやり取りをしています。指示書は通訳を通すため、どうしても「翻訳の壁」が生じ、細かなニュアンスがこぼれ落ちてしまう。

らこ 谷山さんがその「壁」を越えて現場と向き合う中で、特に印象に残っている調整はありますか?

谷山: 例えば、フラップ部分の角の丸み(R)や、ループのサイズといったミリ単位の指示です。見た目にはわからないレベルの微調整ですが、実際に現物に本を入れ、何度も掛け心地を確認しました。

でも、驚いたことがあって。試行錯誤を経て上がってきたファーストサンプルの段階で、すでに「これ、かなりいいね」と社内が沸いたんです。

通常、試作の初期段階はどこか無機質な“工業製品”っぽさが出るものですが、ブックポーチre:tterは素材の厚みの選定や、全体の構造設計が最初から絶妙で、手にした瞬間に「これは良いものになる」という確かな手応えがありました

立ち止まったからこそ、辿り着けた

らこ 実は、この「紙の面白さ」に辿り着くには大きな紆余曲折がありました。制作も後半に入ったタイミングで、当初進めていたレザーペーパーからウォッシャブルペーパーへ素材を切り替えるという、かなり大胆な決断をしたんです。

当初は色は黒 素材はレザーペーパーを検討していました

あの急な変更、デザインフィル側ではどのように受け止められていたのでしょうか。

杉江: 正直に申し上げると、私自身には「もっと早く別の選択肢を提示できていれば」という反省がありました。当初、私の知識不足から「レザーペーパーしかありません」とご案内してしまっていたんです。

ところが、プロジェクトが進む中で谷山から「本来は裏地などに使う素材ですが、ウォッシャブルペーパーという選択肢もあります」と提案があり、そこで初めてお二人にその存在をお伝えしました。

らこ 実際、両方のサンプルをつくっていただいて、手触りや表情を何度も見比べました。その上で、後半のタイミングではありましたが「やはりこちらだ」と、思い切って素材を切り替える決断をした。あのプロセスがあったからこそ、迷いなく進めることができたのだと感じています。

杉江 制作の最終盤で素材を切り替えるというのは、確かに珍しい流れでした。でも、お二人が納得いくまで比較検討した上で決めていただけたので、我々としても非常に納得感がありました。結果的にプロダクトの完成度を高める選択だったと言えるのではないでしょうか。

1950年から続く「紙にこだわる会社」のルーツと挑戦

らこ デザインフィルさんがペーパー素材を扱う背景には、どういった思いがあるのでしょうか?

市川: 私たちの部署はOEMを主戦場としていますが、コロナ前からのSDGs、環境配慮への意識の高まりがありました。自社ブランドとは別に、新しい「環境に配慮した提案」の軸をつくる必要があったんです。

そこで紙素材を再定義し、見つけたのがこの素材です。「紙なのに革のように使える」という実験的な取り組みが、re:tterの「手紙のような世界観」と期せずして繋がったんです。

らこ デザインフィルさん自体が、便箋やレター用品から始まった会社ですもんね。

市川: そうなんです。「書く」ことよりも「書かれる側」に寄り添うノートや便箋が私たちのルーツ。だからお二人のコンセプトには最初から親和性を感じていました。

らこ 読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」さんも、「紙素材は耐久性の面でチャレンジングだ」とおっしゃっていました。個人だからこそ、この「紙の冒険」にアクセルを踏めた気がします。

市川: 確かに、紙で実用品をつくるのは挑戦です。でも、だからこそ「思いで動ける」プロジェクトは、私たちにとっても刺激的でした。

らこ ウォッシャブルペーパーはとにかく軽い。A3サイズのショルダーバッグを試作した時、本革との重さの違いは体感レベルでした。海外、特にヨーロッパでもこうした素材は盛り上がっているのでしょうか?

市川: 欧州は環境規制も厳しく、意識が非常に高い。素材としての注目はやはり欧州が先行していますね。

曽我: デザインフィルさんで企画が立ち上がってから形になるまでの期間は、通常どれくらいかかるものですか?

市川: ブランドアイテムは「1年区切り」のマスタープランで動きます。3月の送別シーズンなどの“売れ時”に向け、1年かけて仕込みます。法人案件は納期に合わせて3ヶ月ほどで進むこともあります。

杉江: 今回のプロジェクトは対話を重ねて、じっくりと時間をかけて進めていきましたよね。

ものづくりを志す人へ贈る言葉

らこ デザインフィルさんは、自社ブランドを大切に育てる一方で、今回のように外から持ち込まれた個人の空想を形にするという、対極にあるような二面性を持っていますよね。

今回、私の個人的な執着を、皆さんがプロの技術で一つひとつ紐解き、確かなプロダクトへと着地させてくれました。その過程を近くで見せていただく中で、「個人の思いを、プロの技術を借りて形にする」ということの豊かさを、改めて実感したんです。

この記録を手に取る方の中には、同じように自分でものづくりを志す人もいるはずです。そんな方々へ、作り手の先輩として「おすそ分け」のようなメッセージをいただけますか。

杉江: オリジナルのものづくりって、「ものが出来上がったときの感動」が大きいと思っています。画面上で見ていたイメージが、実際に手に取れる「重さ」や「質感」を持ったかたちになる。

今回のブックポーチre:tterも、最後の試作品が上がってきたとき、チーム全員で「やった!」という感覚がありました。あの達成感は、やってみた人にしか分からない特権的な喜びだと思います。

谷山: 私は製造の現場に近いので、日々、職人たちの「ここの工程が難しくてさ」という苦労や「こうすればもっと良くなる」という工夫に触れています。普段、私たちはプロダクトを「便利だな」という視点で使いますが、その裏側には驚くほど多くの人の手がある。

自分が作る側になることで、その「背景にある人の体温」を知ることができるんです。物への愛着が、単なる所有を超えて深まっていく。そんな豊かな体験を、ぜひ多くの方にしてほしいですね。

市川: 私はもともと「トラベラーズノートの世界観がかっこいい、自分もこういうものを作りたい」というシンプルな憧れからこの業界に入りました。 デザインフィルには、1950年の創立から積み上げてきた強固な「品質基準」という土台があります。

でも、土台だけでは遊び心は生まれない。歴史があるからこそ、その上に新しいデザインや挑戦を乗せていけるんです。「好きだ」という純粋な気持ちを、信頼できる土台の上で形にする。それが私たちの誇りです。

さいごに一言

らこ ありがとうございます。最後に、表現やものづくりを形にしたいと願う人たちへ、もう一言ずついただけますか。

谷山: 個人的には、ぜひ「未完成なやりたいこと」をそのままぶつけてほしいと思っています。完璧に準備してから相談するより、アイデアの段階でいい。そこから「どう実現するか」を一緒に泥臭く考えていく。まずは、その熱を私たちに晒してみてください。

市川: 自分の企画したものを誰かが喜んでくれる。その感動を一緒に味わいましょう。ものを作りたいと思う人の中心には、必ず強い「エネルギー」があります。一人では形にできなくても、その熱があれば私たちは一緒に盛り上げていける。

いちばん大事なのは、その熱量を絶やさずに持っていることです。熱さえあれば、ものは必ず形になっていく。その熱が、私たちをも動かしていくはずですから。

「熱量が人を動かし、形を作る」。そのエネルギーを、この半年間ずっと受け取っていたのだと改めて感じました。僕たちもその熱を胸に、これからも面白いものづくりを続けていきます。

デザインフィルの皆様、本日は本当にありがとうございました!

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